体験記 ~あの笑顔をとり戻すまで~
あの時を振り返って(5)
個室に入ってわずか1週間後に、治療部屋という4人部屋に移ることになった。
娘より重い症状の子がいるといわれれば、個室を出ざるを得ない。
まだ心も頭も整理できていない。
24時間、他の人と一緒に過ごせる心の余裕などどこにもなく、気持ちが重たかった。
治療部屋には、娘より半年程小さい女の子が一人入っていた。
お母さんと挨拶を交す。
娘は自分と同じくらいの子がいることに興味を示していた。
翌日にはベッドの上で早速一緒に遊んだ。
親同士も話しをする。
大変なのは自分だけではないんだ、と気づいた。
「この状態で人づきあいなんてできない」と思っていたが、話をすることで自分のストレスが軽くなることにも気づいた。
子どもが病気という同じ経験をしているからこそ、話せることもある。
娘は娘で、その女の子と遊べることで随分気分転換になった。
その子が薬を飲んでいる様子を見て、娘も少し刺激を受けたりした。
個室から移ってきて数日後には、治療部屋にきて良かったと思うようになっていた。
部屋はその後、4組の親子の住まいとなった。
娘はギブスも取れ、化学療法を受けながらも、同室の子ども達と遊んで過ごし、入院生活にも慣れてきた。
時々思い出したように、小さな声で「おうちにかえりたい」といったが、それ以上駄々をこねることはなかった。
子どもなりに何かを感じていたのか。
いじらしくて、切なかった。
治療が始まって3週間が経った頃から、副作用の脱毛が進んできた。
覚悟はしていたものの、やっぱりこたえる。
毎日シーツにつく髪の毛をガムテープで取る度に、「これ以上抜けないで!」と願った。